「趣味は何ですか?」
そう聞かれて、「食べること」「寝ること」と答える人は意外と多い。
テレビの街頭インタビューなんか見ててもそうだ。
でも私は、そう聞くたびに少し引いてしまう。
ああ、まだそこなんだな、と。
というのも、
それはかつての自分がまさにそうだったから。
20歳前後の頃、とある同年代の男性と趣味の話になったとき、私はいつものように「食べることが大好き!」と答えた。
すると彼は、あっさりと言った。
「それって、(人間なんだから)当たり前じゃない?」
私はあっけに取られて何も言えなかったのを覚えている。
今までそんなふうに考えたことすらなかった。
そして、「あ、私って恥ずかしいんだ」と理解した。
“当たり前のこと”を、あたかも個性のように語っていた自分の浅はかさに、そこで初めて気づかされた。
その日を境に、私は「食べることが趣味」なんて絶対に言わなくなった。
そして今では、その彼の気持ちがよくわかる。
彼もきっと、私の発言に「浅いな」と感じていたに違いない。
なので、「趣味は寝ること」「食べること」という人を見ると、心がモヤモヤしてしまう。
もちろん、そう言った回答が悪いとは思わない。
ただ、「まだそこなんだな」と思ってしまうのだ。
その感覚を、私自身が通ってきたから。
人間は、食べる。
寝る。
生きていく上で必要だから、基本的には誰だってそれは“好き”で当たり前なのだ。
それをあえて“趣味”として語る時点で、浅いのである。
私もそうだったから、その言葉に“薄さ”を感じてしまう。
もちろん、気づけるかどうかは人それぞれのタイミング。
私にとってあの時の一言は、思考の幅を少しだけ広げてくれた。